この世に偶然という言葉は無い。
即ち、なるべくしてなる世の理。
故に、偶然は必然となり。
この二人は、出逢うべくして出逢ったのだろう……。
真 月 伝
無理やり奢らされた昼飯のお礼に、金目の物を三発お見舞いして、有彦をノックアウトさせた日の放課後。
昨日見つけたアノ道の前へと、僕はまた来ていた。
寒風が頬を撫で、髪を梳いていく中。
僕はゆっくりと、一歩一歩確実にソノ道へと歩みを進めて行った。
迷いは全く無い。
何故か僕には、コノ道を進まなければならない様な気持ちに衝き動かされている。
―――――故に迷いは全く無かった……。
木々に守られ、神聖な道を。
他の人には見えない、不可視の道を。
彼は一人、歩みを進める。
道には、一切の音が無く。唯一の音は、彼が踏みしめる砂利の音。
夕焼けが道の灯りとなり、道しるべとなる。
その他には何も無く、常世とは思えない程。
―――――それもその筈。
彼は知らない。否。知るはずが無い。
事実、彼が進んでいる道は既に異界なのだから。
どれ程歩いただろう。
視界内に異変は無く、まだ木々のヴェールが続いている。
コノ道に入って、一体どれ程時間が経ったのか。
空から差し込む夕焼けも、異変が無い。
―――――そう。かなり時間が掛かっている筈、かなり歩いてきた筈、なのに世界は何も変わっていない。何も変わらない。
それは正に、自分以外が停滞しているよう。何処まで歩いても、合わせ鏡のように永遠と続いている錯覚さえ覚えてくる。
まるでメビウスの輪。終わりの無い螺旋。
テクテク、テクテク。
一体何処へ向かっているのか。この先に何が有るのか。それは解らないし、判る筈も無い。
最早遠野志貴は、痴呆のように足を進めるだけ。
終わりの無いように思えた道が、ようやく終わった。
木々のヴェールを抜けた先の開けた土地。
そこに有ったのは、唯の古ぼけた一軒の木造家屋のみ。
それを見たとき、どうして僕は―――――
―――――懐かしい、と思ったのか。
遠野志貴の記憶の中に、こんな家なんて見たことも無いのに。
どうしてこんなにも、胸が締め付けられるような感覚になるのだろうか。
それにどうして此処は、夕焼け空ではなくて青空なんだろう?
まあ考えたって、僕にはどうせ判る筈も無いので、家に向かって歩き出した。
間近で見た家は、とても脆く、今にも崩れそうな感じ。
玄関の扉は引き戸らしく、引いてみた所鍵は掛かっていない。
引き戸はガラガラ、と音を立ててすんなり開いた。
今居る所の場所が聞きたい上に、誰かが住んでいるかも、という期待を持って僕は家―――――と言うよりは屋敷―――――に上った。
勿論その際、「お邪魔します」の一言は忘れない。う〜ん、僕って良い子だ。
中は外と違って、意外としっかりとした造りになっている。
外見より中身を重視、といった所だろう。しかし全てが木造というのは、ある意味スゴイ。
悪いとは思いつつも、僕は全ての部屋を見回ったが人は何処にもいなかった。
「う〜ん。誰もいないのかな?」
残す所、見ていないのは一番奥にある部屋だけとなり、
本当に誰もいなかったらどうしよう? 等と考えつつ、僕は両手で最後の部屋の襖を開けた。
――――っ!
何も言えなかった。いや違う、言う気にも起こらなかった。
その部屋は、道場の様にただ広く。圧倒的なほど。
それだけじゃない。その部屋の雰囲気がオカシ過ぎるほど。
こんな僕でも分かるほど、部屋の雰囲気は張り詰めていて、ピリピリしている。
視線はソレに魅入られているかのように、ただ一点のみを見据えていた。
「っは――――あ、あ」
息が上手く出来ない。何か霞のようなモノが詰まる感覚。
呼吸をするのに必要な器官が働かずに、ただ口がパクパク、と酸素を求めて動くだけ。
真剣を喉元に突きつけられて、動けば即刻斬られる。それは、殺気。
何で僕はそんな物を感じ取れるかは分からないけど、感じ取れてしまう。
――――その殺気を、視線の先にいる一人の人が出していた。
「おや? 子供だったか。これは失礼した」
その人が言葉を発すると共に、殺気は嘘のように消えていった。
――――というか、勘違いで殺されちゃあ、被害者側はたまらんっちゅーねん!
ようやく動く事が出来た僕は、取り合えず心の中でツッコミを入れておいた。
「して何用かな? 子供が此処に入り込めるとは些か疑問ではあるが」
「――――え? いや、その、え〜と」
「ふむ、言えぬか。まあ良い。それでは少年、少し失礼する」
そう言うと、声色からして男の人は近づいてきて、僕の額に手を置いた。
見上げる形となった僕は、目線だけでその男の人をジックリ見る。
髪は長く群青色で後ろ髪は一つに束ねていて、顔はカッコ良い。
身長は当然僕より高く――――当たり前か――――、大体百八十センチぐらいは有ると思う。
服装は、何故か着流し姿である。
――――どれ程経ったのか。
顔を顰めたり、驚いたり、と百面相をしていたので待つ時間は退屈じゃあなかった。
そもそも僕としては、何に対してそんなリアクションしていたのかが不思議なんだけど。
男の人は、手を離すと僅かに僕から離れて考え出した。
「七夜の生き残りで、根源に到達し、魔法使いに出会って、直死の持ち主――――か」
「あの〜?」
「しかも、潜在魔力が他の術者より一回り高め。となると彼が抑止力か?」
「すいませ〜ん?」
「いや、違うな。要素が幾重にも固まったのか……。ならばこれは偶然ではなく必然なのだろうな」
「聞いてます?」
「む。これは失礼。何かな?」
そんな、何かな? 何ていう風に聞かれたら、僕としては如何すればいいんだろう?
何をブツブツ言ってるんですか? って聞こうとしただけなんだけど……。
でもここはヤッパリ、この場所は何処なんですか? かな。
うん。先ずは、それを聞こう。それでその次に名前を聞こう。
「此処って何処なんですか?」
「私の家だが」
いや、そうじゃないって!
そんなつもりで聞いたんじゃないのっ!
何かこの人、どことなく有彦みたいなタイプだな……。
「ククク。いや、失礼。君の言いたい事は十分に解っている。だがしかし。その質問に答える前に、私から問わせてもらおう」
「何をですか?」
「では問おう。――――君が私と出逢ったのは、一つの分岐。更に此処より運命は枝分かれする。此処から先へ踏み込めば後戻りは適わず。踏み込まねば、事が起きた時に後悔しよう。全てを知りたければ、踏み込むが良い。逆に、今のままで居たければ立ち去るがよい。どちらを選ぶはお主次第。進むか退くか、悩んで決めよ。……っと、悪いな少年。これも、此処に来た輩に対する仕来りなんでね」
「…………昔から、有るんですか? その問いかけ」
「ん? いや、今決めた」
オイオイ。だったらそんな、昔から有る! みたいな言い方しないでよ。
うわ〜、悪戯が成功した子供みたいな笑顔してるし……。
――――はあ。それでも、本当にどちらか選ばなきゃ駄目らしい雰囲気だしな。
全てを知りたければ、進め。このままで良いなら立ち去れ、か。
要するに残るか、消えろ。見たいな事か、結局は。初めからそう言えばいいのに。これだから大人ってのは。
ん〜〜〜、ん? 待てよ、態々どちらかなんて選ばずに――――
「因みに。今は帰るけど、気が変わってまた此処に来る。なんてのは駄目だからな。チャンスは一回だけ」
「だ、誰も、そそそそ、そんな事考えてませんよ。嫌だな〜」
……もろにバレてるし〜!?
って、心の中読まれた!? 何者だよこの人!
待て、よく考えろ志貴。『ピンチの時はまず落ち着いて、その後よく考えること』って教わったじゃないか。
「ふむ。決めあぐねている様なので一つ教えておこう。君が持っているその『力』だけでは、この先君が大きくなった時大切な者を守りきるのは難しい」
「――――っ!」
そんな、大切な事を真顔で言われたら、答えなんて一つしかないじゃないか。
先生は言った。――――『大切な者は、絶対守らないといけないからね。
大切な者を失いそうな時、その目でそれが防げるなら迷わず使いなさい』と。
それに――――『君は人よりそれを、何とか出来る力があるんだから』と。
でも、この人は『その力だけでは大切な者を守りきるのは難しい』そう言った。
――――大切な者は絶対守れ。一つの力で守りきるのが難しければ、色んな力を付ければいい。
踏み込むならば、その力を教えよう。
ああ、そうか。そういう意味なんだ。この人は僕に教えてくれたんだ。
この人にはそういう『力』が有る。そうじゃないと、話してもいないのに、僕の力を知っているわけが無い、
灯してくれたんだ、僕の進む道を。道標として。
そうだ。なら、やっぱり、決まってるじゃないか。
「決めました。僕は――――」
――――それから行く年が過ぎた。
「っと、それでは師匠。長い間お世話になりました」
「本当に長かったな。志貴なんて、こんな鼻タレ坊主だったのに」
そう言って師匠は笑いながら、人差し指と親指の間を少し空ける。
いやいやいや、そんな小さい人間なんていないって! 先ず有り得ない。
それにしても、あの時の俺の選択は正しかったと、胸を張って言える。
勿論、今までの辛く厳しい修行も含めて。
そのお陰で、俺の記憶も完全に取り戻せたし、何より直死の魔眼を切り替える事が出来る。
そうなるとこの魔眼殺しの意味が無くなるんだけど、コレは大切な思い出だから掛ける事にした。
思い出を程々にして、俺は踵を返して師匠の元から立ち去る。
「あ〜、言い付けを破るなよ志貴。それに教えた力は、万能って訳じゃないからな」
「大丈夫ですよ、師匠」
「そうか。なら、私から弟子への最後の餞別だ。しっかり心に刻み付けろ」
「何ですか?」
「――――I have forget your tha face」
「?」
「今のはキッカケだ。時期が来れば自ずと解る。――――じゃあな」
それだけ言うと、師匠は家の中に姿を消した。
考えても仕方がないので、俺もそのまま足を進める。
もう会えないのは名残惜しいけど、出会いが有れば別れも当然有るのが、世の理。
最後に聞いた、師匠からの言葉を心に深く刻み込んで、俺も姿を消した。
I have forget
your tha face.
――――その笑顔を覚えている。
あとがき。
こっちの後書きを書くのは初めてだったりw
拙い文章や、誤字脱字等は勘弁してください(汗)
なんで後書きを書いたかと言うと、説明というか言い訳の為だったり(汗々)
修行内容はカット致しました。理由は、折角の技なので後で知った方が得かな〜、と。
バレバレだとは、思いますが最後の英文及び訳は、適切ではないのでご了承ください。
まあ、造語ですね〜。因みに師匠が志貴に言ったんですが、志貴に教える為であって、師匠はそっち方面の人じゃ有りませんw
それはそれで面白いかも(マテ)
師匠の名前は秘密、と言う事でwミステアリスな人ですからw
では〜〜。
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