少年が少し成長した時
ある一つの分岐を見つける
それを見つける事が出来たのは
偶然か、それとも・・・・・・
真 月 伝
紅の刻。
夕日によって全てを染められた世界。
全てが、赤く、紅い世界。
まるで血をぶち撒けた様な。
朱に侵食される刻。
それは、とても儚く、淡い蜃気楼の様。
酷く幻想的で、いまにもガラガラと、崩れちゃうんじゃないかと思ってしまう程に。
まるで世界の終わり、とも思ってしまう。
……奇しくもそれは、僕の眼と同じ様。
だから今が侵世界で、何処か他に真世界が有るんじゃないか、と考えてしまう自分がいる。
だってこの世界は―――――今にも死にそうで。
一秒後には消えてしまいそうだから。
ただ静かに、僕は堕ちて行く夕日を見届ける。
いつの間にか流れている、頬を伝う一雫の涙。
何故流れるかは自分でもよく判っていない。
夕日を見ていると、悲しくなって、自然と流れ落ちてしまう。
何で自分はそうなるのか……ワカラナイ。
ただ胸が苦しくなって、悲しくなって、切なくなって、消えてしまいたいぐらい。
何度この感じを味わえば良いのか。
何故こんな感じになるのか。
全ては―――――昔に繋がるのかもしれない。
曖昧で、ハッキリ思い出せない………昔に。
完全に悲しみの太陽が堕ち、寂しさの月が顔を出す。
その頃にはもう、夜の帳が降りて辺りは暗闇に鎖される。
ただひとつ、この場所に有る光源は、空に浮かぶ寂しい月だけ。
その月の光が、たった一つの明かりとなって。
……まるで、スポットライトの様。
さしづめ、僕は舞台の役者といった所だろうか。
―――――いや、僕には無理だ。
役者どころか、舞台にすら立てない。
何故なら、壁を……みんなとの間に壁を作っているから。
いつ、この眼の事で何が起こるか分からないから。
だから僕は近づかないし、近づけない。
だから僕は……一人、孤独。
それでも傷付けるよりはマシだから、耐えていける。
この先も―――――ずっと。
志貴は一人、裏山を降りていく。
その姿は酷く希薄で、今にも消えていきそうな雰囲気を纏っている。
例えるなら、陽炎の様。
そんな志貴が、去った後。
そらには―――――ただ、つきがひとつ、さみしげにわらっていた。
―――――幾日かの時が流れ。
季節は緩やかに、けれども確実に変わり始める。
もうすぐで、白い妖精が舞い降りてきて。
白い花が夜空の隙間を埋めて行く。
そうなると辺りは穢れない色に包まれる。優しく。やさしく。
僕はこの季節、白が好き。天からの贈り物で埋められた、白い世界がとても好き。
今日も僕は裏山に、一人佇んでいる。
大抵、学校が終われば僕は、この裏山に足を運ぶ。
一人になりたくて、迷惑を掛けたくなくて、だから僕は一人になる。
でも……でも、やっぱりそれは寂しくて。
胸が張り裂けそうになっていく。
だけど、それは―――――以前まで。
今はもう、それも無くなった。
何故ならば、僕には初めて友達が出来たから。
名前は―――――乾有彦。
有彦は川原で、行き成り僕を殴りつけてきた。
訳が解らなかったけど、やられっ放しなのは何か癪だから、当然僕は殴り返した。
そうしたらいつの間にか、喧嘩になって。ずっと、殴り合ってた。
どれ位起ったか分からないけど、そのせいで僕たちはフラフラになって、お互い仰向けになって倒れこんだ。
二人とも血は出てるは、疲れて息切れしてるは、で大変だった。
―――――その言葉は今でも覚えている。
アイツは「今日からお前は俺のライバルだ」と、言い放ってきた。
その時僕は何て言葉を返したか、覚えていない。
多分……疲れていたからだろう。きっと曖昧に返事でもしたと思う。
―――――今となっては、変だけど結構良い思い出。
夕日が沈みかけてきて、風が強く吹いてきた。
冷たい風が頬を撫で、浚って行く。
だんだんと夕日が沈むにつれて、風が吹き始め夜の色が濃くなってくる。
たいようの時間は削られて、その分つきが長く留まる。けどそれも、この季節だけ。暖かく包む様な季節になれば、
つきの時間は削られて、その分たいようが長く留まる。
くるくる、くるくる、繰り返し繰り返される。
だけど、同じ日なんて訪れない。常に運命は廻り、廻る。
ヒトはゆっくり、それでも確実に成長して行く。
それは、自分では決して分からない様なスピードで。
昔の自分を振り返ってみて、そこで初めて自分が成長したという事を気付くのだろう。
風が更に強く吹く。
木々がざわめき、音が生まれる。静は動に侵食されていく。
そこでようやく僕は腰を上げて、帰る前に街を眺める。
――――――――――俯瞰風景。
闇を切り裂くような明かりが眼下に広がっていて、とてもキレイ。
でもそれは、考えているより脆くて、ヒドク不確かな人工物にしかすぎない灯り。
街灯、ネオン、車のライト――――全部穢れている。
なんて――――寂しい。
………僕が俯瞰していると、突然後ろから声を掛けられた。
「ここに居たのか」
「………うん」
「まったく、黄昏るのが好きだねぇ、志貴は」
「た、黄昏って……」
「一緒だろ? ホレ、帰るぞ」
「そうだな」
二人で、裏山を降りて行く。
コレも随分慣れた事。どうもコイツには僕が居る所が、解るらしい。……ストーカーか?
まあ多分僕の為だろうけど、何だってこんなに気を遣ってくれるか分からない。
一度聞いた事が有るけど、お前の雰囲気が危なっかしいから、と笑いながら言われた。
どうもそれ以外に何か隠している様だったけど、僕は一応それで納得した。
そのまま二人で山を降りて行く。………その途中で僕は足を止める。
――――それを初めて見つけたのは、裏山から有彦と一緒に帰る時だった。
「どうかしたのか? 志貴」
「こんな道有ったっけ?」
僕はそれを指差す。それは裏山の中腹辺りにいつの間にか有る、一本の道。
この裏山は頂上までの道が一本しかなく、それ以外は木々に囲まれて森となっている。
だから、こんな所に他の道が有るのはオカシイ。
新しく出来た訳ではない、元からそこに有った訳でもない。
此処に来はじめてから昨日まで、確かに道は無かった。
でも――――いつの間にか、そこに有るのだ。
不思議。まるで狐に化かされたみたい。
そして、この後有彦から発された言葉で僕は更に驚く。
「何言ってんだお前? そんな道なんて何処にも無いぞ」
「えっ!? 本当に?!」
「はぁ〜、まったくボケるには早いぞ志貴。そんな事より早く帰るぞ」
言うや否や、有彦はさっさと歩いていく。
だから僕は、後ろ髪を引かれつつその場所を後にした。
でもやっぱり、気になってしょうがない。
一度振り返ってその道をまた見る。
「――――!」
道の奥から、誰かに呼ばれた気がした。
幻聴なんかじゃなくて確かに僕の名前を呼んでいたと思う。
だから、そのまま道に入ろうと――――。
「オーイ志貴。早くしろ。置いてくぞ。後三秒の内に来なかったら、明日の昼飯お前の奢りな」
「勝手に決めるな! 僕貧乏なんだから、無理だって」
――――したけど、有彦が変な事言うから入れなかった。
そもそも三秒なんて無理だって。何考えてるんだアノ馬鹿は!
だけど、金欠の上に有彦に奢るなんて事したくないから、僕は有彦の所まで必死に猛ダッシュで駆けて行った。
――――それでも、間に合わなくて有彦に奢らされたのは、また別のお話。
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