ツメタイ光を放つ月。
クライ森。
心に飛来する物は凶々しい程の殺意。
少年は闇夜を駆け抜ける。
全ては―――――――コロスために。
真 月 伝
「ま、槙久様、た、た、大変です」
「落ち着け、一体どうした?」
この襲撃の首謀者――――遠野槙久はトランシーバーで慌てる兵に尋ねる。
彼が居る場所は七夜の森の麓。
戦いに参加せず、部下と赤い鬼人を森に放って高みの見物を決め込んでいる。
それでも一応は護衛として何人かを側近にしている。
彼――――槙久の策謀は大した物だった。
計画通りに七夜の者たちは次々と死んでいっている。
大半が連れてきた赤い鬼人によるもの。
余りにも計画通りにいっているので、顔が緩んでいた。
七夜を殲滅するのは時間の問題。
そう考えていた矢先――――。
定期連絡から部下の慌てた声が入った。
槙久は何が起こったか知りたかった。
自分たちが勝っているのは必然。
ならば何かイレギュラーでも起きたんではないか?と。
「我が兵が七夜の者により悉くヤラレています」
「何!?敵は一人か?」
「それが、わからないのです。無事な者は誰一人としていません」
「紅赤朱はどうした?!」
「ただ今、七夜黄理と戦っている模様です」
「チィ」
部下の放った言葉に、槙久は内心焦った。
危険重視していたのは――――七夜黄理だけだと。
その黄理に赤い鬼人さえ充てておけば、他の者はたいした事じゃない。
そう思っていたのだ。
故にイレギュラーが起きて計画が狂いだす事に焦っていた。
「ギャアァァァァッッッ」
「オイ、どうした?」
いきなりトランシーバーの向こうから聞こえて来た断末魔。
声は近くに居た護衛たちにも響き渡る。
断末魔が聞こえてから雰囲気が重くなる。
――――沈黙が続く。
唯でさえ静観としている七夜の森。
風の唸り声だけが麓に鳴り響く。
嫌な考えは現実へ。
予測は予感へと変わり現実となる。
槙久は何が起こったか理解していながらも部下に尋ねた。
「・・・・・」
向こうは何も言わない。
言わないのではなく――――言えない。
それもその筈である。
連絡をしていた男はたった今殺人貴の手にかかり、既に息絶えていたのだから。
槙久の背中にツメタイ汗が一筋流れた。
「クソッ」
トランシーバーを地面に思いっきり叩き付ける。
嫌な考えを振り切るように八つ当たりをした。
頭から最悪な考えを追い出すように。
ガシャン、と音が響く。
壊れた音は静観な森にとても響き、どこまでも伝わるような音に聞こえた。
「私が先に行く、お前らは後について来い」
自分の目で確認する事に決めたのだろう。
その場にいた護衛の兵に命令を出し、槙久は山を凄い速さで登って行く。
木々の間をすり抜け、自分も襲われるという事も考えずに登って行く。
唯ガムシャラに・・・・・・・。
「・・・・フゥ」
どこかへ連絡をとっていた奴を殺し、僕はため息を吐いた。
辺りに血の臭いが立ち込める。
僕はこれから起きる事の前に空を見上げた。
空には大きな月。
その月を覆い被す様な分厚い雲が、いつのまにか出ていた。
まるでこれから起きる事を現している様な気がする。
さっき吐いたため息は血の臭いの為に吐いたものではない。
懲りずにやって来た、愚か者たちの為に吐いたモノ。
なんて滑稽なのだろう。
自分たちが死ぬとも思わずに近づいて来るのだから。
まったく、なんて――――無様。
そんなに死に急ぎたいのか?
まあ、逃げても僕が何所まででも追っていくけど。
さあ、そろそろ狩ろうか。
「お前ら、こそこそ隠れてないで出て来い」
僕が怒気を込めて紡いだ言葉に、周りからぞろぞろと十人の混血が出てきた。
相も変わらず銃を携えている。
全く――――群れる事しか知らないのかコイツラは?
イヤ、違うな。
弱いから群れる事しか出来ない。
群れれば勝てると思い込んでいるんだ。
なんて――――愚か。
こんな奴らにみんなが殺られたと思うと、イライラして来る。
「よく俺たちが隠れている事がわかったな」
「――――」
一人が声をかけてきたが僕は無言。
こんな奴らと話なんてしていられない。
顔も一秒だって見たくない。
僕はさっきから殺したくてウズウズしている。
ナラバ――――。
「大人しくしてろよ、痛まないように送ってやるから」
僕は奴らの言葉を無視する。
一々コイツラの言葉なんて聞いていたらキリがない。
月夜を鞘から出し、右手に七つ夜左手に月夜の二刀流で構える。
「この人数相手に子供であるお前が勝てると思うか?」
――――コロス。
十人程度で勝った気でいるとはなんて愚かな。
まったくコイツラは――――哂わせてくれる。
子供だからって気を抜きすぎだ。
故に今から行なわれるのは一方的な――――サツガイ。
いや、惨殺とでも言うべきだろうか。
僕は内心――――嗤っていた。
可笑しくてオカシクテ――――嗤っていた。
この人数相手に勝てるか、だって?
「――――勝てるさ」
言葉と同時に走り出す。
僕の動きは今までで一番キレイだった。
認識出来ないようなスピードで一瞬にして接近する。
地面スレスレに接近する。
手を後方にして――――鳥のように。
獲物を狙う鷲のように。
黒き双方の瞳で相手を睨みつつ接近する。
右手の七つ夜で心臓を突き
閃刺――――死突。
左手の月夜で隣の奴の首を刎ね飛ばし
閃鞘――――七夜。
そのまま回転して勢いを殺さず胴体を切断する。
閃鞘――――七夜・弐連。
地を蹴って宙を舞い、七つ夜を頭に突き刺す。
閃鞘――――八穿。
肉を引き裂く音。
骨が折れる音。
驚愕の声。
頬を撫でる風。
重く立ち込める血の芳香な匂い。
全てが心地良い。
僕は七夜の技で一人一人確実に仕留めていく。
夜の闇に煌く死を狩る刃。
黒い色の空間に光る銀の色。
さながら踊るように美しく。
舞を舞うようなその動きは無駄が一切無く、見ている者がいたならその動きに目をとられていた事だろう。
僕は返り血を一滴も浴びる事も無く、正に暗殺者の如く完成された動きで十人全てを殺しつくした。
――――その場に残ったのは優雅に佇む少年と死体のみ。
「・・・・・こんなものか」
呆気ない。
こんなのは――――モノタリナイ。
コレでは怒りなんて全然納まらない。
刃に付着した血を払って拭う。
刃を一振り二振りした後その場を離れようとした時、二つの氣には及ばないモノのかなり強い魔の氣が近づいてきた。
今まで殺してきた様なザコなんかの持つ魔の気配じゃなかった。
ならばアイツラが言っていた遠野だろう。
僕は姿を確認する為に移動するのをやめた。
近くの切り株に腰掛けて近づいてくる魔を待つ事にした。
――――待つ事数秒。
その魔は姿を現した。
「ほう、お前が私の兵達を殺していったのか。まだ子供じゃないか」
「だからどうした?」
子供だから何だっていうんだ?
子供には楽に勝てる、とでも思ってるのかコイツは。
コイツの考えも所詮他の奴らと変わらない。
そんなことより――――。
「お前が遠野か?」
僕は冷静に尋ねてみた。
もし遠野なら普通の殺し方ではこの怒りは納まらないだろう。
じわじわと痛めつけてから殺してやる。
その身に愚かしい行為をした代償として。
生きながらにして地獄を味わわせてやる。
「いかにも、遠野家当主――――遠野槙久とは私の事だ」
こいつのせいで、こいつのせいで母さんや皆は死んだんだ。
こいつは決して――――ユ ル サ ナ イ。
簡単には殺さない。
直ぐに殺しては面白くもなんとも無い。
「お前は殺す」
「なかなかの殺気だな。これならば、あの計画を実行できそうだ」
槙久の言葉を無視する。
僕は早くこいつを殺す為七つ夜からパチン、と刃を出す。
夜の闇に輝く刃。
ツメタイ光を放つ刃を片手に死を齎す少年の姿をした殺人貴。
殺人貴がいざ行動を起こそうとしたその時――――。
遠くの場所で――――戦っていた二つの大きい氣の内一つが消えた。
氣が消える。
氣が消えると言う事は、どちらかが死んだ事を意味する。
故に僕は信じたくなかった。
何故なら消えた氣は父さんの氣だったから。
「・・・・・うそだ」
――――アリエナイ。
鬼神と謳われし最強の暗殺者、七夜黄理が死んだなんて。
認めない。
認めたくない。
心では否定していても頭では理解してしまっている。
そう、七夜志貴はこの時既に――――理解してしまっている。
彼はそれを認めたくないがうえに知らない振りをしているだけ。
「――――クソッ」
なんて僕は――――無様だ。
僕はすぐさま確認する為に、槙久を放って置いて近くの木に飛び移る。
間髪おかずに今だ移動していない大きい氣の下へ、木々を飛び移り急いで向かった。
混乱していて気づかなかった。
僕は――――七夜志貴はここでまたミスを犯したのだ。
槙久をここで殺してから行くべきだったという事を。
そうすれば、あんな悲しい事件は起きなかったのに・・・・・・・。
――――殺人貴は自分の父親が散ったその場所へと駆けて行く。
そこで待つ強敵と戦うために。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||