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 桜、咲く。
 綺麗な花びらで、見る者を癒し、ただただ優雅に。
 優雅だけれども咲いては散る、儚い命。刹那の美、刹那の生。
 けれど、だからこそ美しくもあり、また悲しくもある。
 美しい花を咲かして直ぐ散る桜は、一体どちらなのだろうか。
 桜は散る時、何を思っているのだろう。
 桜は散る時、何を感じているのだろう。
 蝋燭の炎が消える瞬間の様な桜の花びら。
 風が吹いて、散る花びら。
 桜は散る瞬間、自分では認識をしているのだろうか。
 その――――儚い死を。

 桜、舞う。
 桜吹雪。乱れ桜。
 散っても尚、美しい桜。
 だけど、それも一瞬で、直ぐに花吹雪は止んでしまう。
 後に残るは地面に積もる花の雪と、全てをなくして裸になった、ただの木のみ。
 そこに残るのは美も無く、ただただ寂しいモノ。
 優雅に咲いて見る者を癒していた桜とは、似ても似つかない変わり果てた姿だけ。
 それでも桜は、また花を咲かす。
 綺麗な花びらを、春が来る限り、いつまでもいつまでも。
 それはさしづめ、植物の神秘だろう。

 桜、散る。
 それでもいつかは、桜も枯れていく。
 もう二度と、あの美しい花びらを咲かさない。
 枯れてしまったらもう終わり。即ち生が失われたという事。
 生を失ってしまったら、後に待つのは死のみ。
 失ったものは二度と帰ってこない。
 それは桜だけでなく、全てのモノも同じ事。
 だから、後悔しない様に、精一杯生きている。
 ………でももし、桜だけが生を失ってもナニカを代用にして喪った生を取り戻したら。
 それは、生が有るモノ全てを冒涜しているという事だろう。
 それでもそんな事が実際に起こったなら。
 その桜は、ピンクの花びらでなく――――。

 そんな命を穢す様な事が、この春実際に起こってしまう。










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 ――――――1994年 春。
 始業式を終え、割り振られた教室に入る。
 気付けばいつの間にか、三年生。
 無理やり此処の中学に入れられて、もう三年目になろうとしている。
 ようやく俺も、『遠野』志貴として過ごせる様に慣れて来た。
 自分の本当の事もバレていないし、友達も出来た。……だけど、表面上だけ。
 俺からは決して話しかけない上に、存在感も出していない。常に周りから一歩引いている。
 それと、この『眼鏡』にもやっと慣れて来た……。

 教室へ入ると、何故か僅かに騒がしかった。
 まるで、何か珍しい物を見るかの様な。
 俺はその視線の先を見た。
 ――――ドクン――――
 その先には一人の女がいた。

 藍色の着物という時代錯誤な格好。
 黒く綺麗な髪を肩口ぐらいで乱雑に切り、男か女かわからないほど整った顔。
 深い、深い、こちらの中にあるものを見透かすような静謐で漆黒の瞳。
 それとは対照的に肌は透き通るように白く白く、黒と対となるためにこちらもこの上なく完全な白。
 立っているだけでそこが根本から変えられるような存在感に、今にも崩れ落ちそうな危うさを含んだ、矛盾。
 立居振る舞いに一切の無駄が無く感情らしい表情を顔に出さない女。

 何故かソイツを、見た瞬間に心臓が跳ねた。
 ――――それと同時に。
 頭を締め付ける程の頭痛が襲ってきた。
 しかし、それも一瞬で消え去っていく。
 ……何故頭痛がしたかは、ワカラナイ。
 だけど、その女を見たとき――――かつて、何処かで会った様な気がした。
 何処か俺と似たような雰囲気を持つ女。
 それが、両儀式との――――再会だった。


 ――――――1994年 春。
 私は今年で十五歳になる。
 学歴でいうのなら中学三年生で、在り来りの私立中学に通っている。
 この中学は、私服制度なので私にとって丁度良かった。

 長い、無駄とも思える始業式を終えて自分に当て振られた教室に向かう。
 教室の中ではみな思い思いの格好をしている。
 着物姿が珍しいのか、回りは私に視線を向け小声で何かを話している。
 でも、そんなのはどうでもいい事。
 小学校、中学一,二年と同じ事なのでもう慣れた。
 だから私は普段通りにしている。
 そんな教室の中で待っていると、二人の少年が教室へ入ってきて目についた。

 一人は――――――。
 黒色の髪に黒ぶちの眼鏡をした少年。
 何か目立つ格好や相貌をしている訳ではない。
 ガクラン姿が目立つと言えば、そうかもしれないが。
 そんな中、私は気付いてしまった。
 他の誰も気付かないかもしれないが。
 ソノ少年が纏っている雰囲気が・・・異常なのだ。
 『死』を連想させるような危うくて冷たい雰囲気をもつ少年。
 何処か私と似ていて、周りから一歩引いている様な感覚を持つ少年。
 それが、遠野志貴との――――――出会いだった。

 そして、もう一人。
 先程の遠野志貴に似ているけれど、何処か違う。
 こちらは、全てを包み込むような柔らかな雰囲気だ。
 彼はいまだ少年の面影が残る、柔らかな顔立ちをしていた。
 大きな瞳は温和で、濁りなく黒い。
 その性格を表すように髪型は自然で、染めても固めてもいない。
 かけた眼鏡は黒ぶちで、そんな所も遠野志貴に似ている。
 飾りのない服装は、上下ともに黒色。
 それが、黒桐幹也との――――――出会い。


 体育館を出て、通路を渡り校舎に入る。
 クラスは3−C。
 階段を昇り、二階の教室へと入る。
 この中学は四階建てで、三年生は二階だ。

 雲ひとつない、晴れ晴れするような晴天。
 何処までも澄み渡るような蒼が、春を実感させる。
 やわらかく降り注ぐ日光が、より一層春を際立てる。
 ああ――――春だなあ。
 そんな当たり前のことを思いながら、これで最後なんだなあ、とも思っている。
 僕は新しいクラスメートを確認するべく、教室を見渡す。
 すると、或る二人の雰囲気がとても似ている事に僕は気付いた。
 二人とも、雰囲気が落ち着いているというか、人を寄せ付けないとでもいうか。
 男の人のほうは、笑っているんだけど、何処か無理をしているようにも見える。
 女の人にほうに至っては、完全に無表情だ。
 誰がどう見ても、人とは関わりを持ちたくないように見える。
 それが、遠野志貴と両儀式との――――――出会い。











あとがき
今回は説明でした。
え〜、志貴の所で幹也の印象を入れませんでした。
何故かというと、志貴は式にしか興味がないということで(笑)
まあ、次回からだんだんと発展していくと思います。
それで〜は。

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