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「う・・・・・・・・・・・ん」

自分の中の奥深い世界から段々と浮上していく。

朧気ながらも意識が覚醒していき、俺は目を覚ました。

次いでゆっくりと重い瞼を開ける。

長い事眩病の世界に居たからだろうか、蛍光灯の光が思いのほか眩しかった。

故に耐え切れず、開けた目を直ぐに閉じる。

目を閉じた事で、体に変化が起きたのが理解できた。

さっきまでと違って不思議と体が重くないという事を。

気だるさ、というかなんというかそれが無くなった感じだ。

それでも違和感が無いと言えば嘘になるけど、大して支障はないので態々言う必要も無い。

俺はゆっくりと体を起こす。

――――――依然目は閉じたままで。





「あら起きたの?」

「――――――誰だお前は?」

聞いた事の無い口調。

橙子ではない。

橙子の喋り方と違うので俺は警戒心を出しながら尋ねた。

思い出した七夜の技でいつでも対応出切る様に。

実際の所思い出しただけで、俺が使えるかどうかは分からないが。





「随分な挨拶ね。もうちょっと子供らしく出来ないの?」

「――――――」

俺は冷静に状況を確認する。

焦っては考えれるものも考えられない。

先ず、この部屋に来たのは俺と橙子だけ。

今現在この部屋に居るのも俺と橙子の二人だけ。

知覚範囲を広げて確認しても二人しかいない。

ならば――――――多分声の方向からして目の前に居るのが――――――橙子という事になる。





「お前橙子か?」

「当たり前でしょ。私以外に誰がいるの?」

やっぱり声の主は橙子らしい。

それにしては、さっきと口調が違う。

まるで正反対だ。

という事はコイツ――――――二重人格だろうか?

だとしたら、さっきまでの俺と――――――。





「いつまで目を瞑ってるの?」

「分かってる」

俺は目を慣らすように、ゆっくりと開けていく。

目の前には眼鏡を掛けている橙子が居た。

それはまだいいが――――――。

沢山の黒いラクガキが目に飛び込んできた。

目覚める前とは違う。

線が格段に増えている。

蛍光灯で照らされた部屋の中に黒い線がはっきりと浮かび上がっている。

更には、その根元と言うべきだろうか?

線の根元には黒い点が存在していた。

多分コレは、あの世界で刺した時の点だろう。





「志貴くん悪いけど、その目を切り替えてくれる?」

「――――――」

俺は目を閉じて、チャンネルを切り替える。

頭の中で思い描くだけ。

たったそれだけで切り替わる。

それにしても何時の間に切り替わったのだろう?

切り替えてから普通の状態で意識を失ったはずなのに、起きたらいつの間にか直死の瞳に戻っていた。

・・・おそらくは――――――あの眩病の世界で。

自分の中の死の世界で。

柄の部分に七つ夜と刻まれた飛び出し式のナイフで。

――――――点を突いた時から。





「全くめちゃくちゃな奴だ」

コトン、と橙子は机に眼鏡を置いた。

その途端、俺と初めてあった時の口調に戻る。

どうやら二重人格じゃなくて、眼鏡の有り無しで性格が切り替わる様だ。

変な奴だ。

まあ魔術師には変わり者が多い、と聞いたような記憶があるから驚きはしないが。













正直ゾッとしたと思う。

違うわね―――――そんな生易しいモノじゃない。

目を覚ました志貴くんは明らかに変わっていた。

体とか喋り方とかじゃなく雰囲気が変わっていた。

病院で逢った時は冷たい雰囲気を持っていたけど。

今は死を纏っている。

――――――でも・・・それだけじゃない。

あの瞳。

とても蒼くて綺麗な瞳を見た時背筋にツメタイ汗が流れた。

自分が殺されると感じるほどに。

まるで死神と対峙している様な錯覚さえ覚えた。

しかも直死の魔眼の状態の時、魔術回路が開いている。

それに伴いとんでもない程の魔力が漏れ出していた。

私みたいな魔術師の家系なら問題はないけど、志貴くんは違う。

七夜――――――退魔の家系である。

七夜は魔術・方術を学ばない。

その代わり、いかにして相手を殺すかを極限までに探求してきた一族。

それ故に志貴くんの魔力は――――――有りえない。





「全くめちゃくちゃな奴だ」

眼鏡を外し机に置く。

私は何故こうなったかを考える為にタバコに火を付け、紫煙を口から吐き出して考える。

仮死状態――――――正式にいえば一度死んだが――――――から目覚めた時、魔力が漏れていた。

という事は、だ。

あの状態の時に何かが起こった、としか考えられない。

記憶が戻った――――――確認はしてないが――――――だけでは、ああまでならない。

ならば何だ?

覚醒遺伝もしくは深層心理にあった隠れた才能か?

それだけであんな魔法使いみたいな魔力になるのか?

覚醒遺伝ならば説明がつくが・・・・・・・・・。

ちょっと待て!?私は今何と考えた?

魔法・・・・・使い、だと!?

真逆!?コイツは――――――。

――――――「 」に触れた!?

バカな!?この年で辿り着くなど聞いた事がない!

イヤしかし、そうじゃないと説明がつかない。

これをもし、協会と教会、王立騎士団やら錬金術師、死徒どもが知ったら・・・・・・。

クックック・・・・・・ハハハハハハハ。





「大したもんだよお前は」

私は机に手を伸ばし眼鏡を掛けた。

多分私は数十年分は驚いただろう。

直死の魔眼で根源に触れる、か。

――――――ふぅ、上手く隠し通さなければ。













「大したもんだよお前は」

「――――――」

突然橙子が何か言い出したが、どうでもいい事なので聞き流す。

壁に掛かった妙に古臭い時計を見ると、とっくに夜中の十二時を回っている。

そんなに掛かったのかと考え、ふと外の夜空を見る。

窓から見える昏い夜空には、望月と輝く星々。

黒い空に自分の存在を知らしめるように。

そういえばあの時も、こんな月だったと思い出した。

あの――――――最強で最凶の最恐だった男を殺した日の、夜の月を。





「記憶戻った?」

「・・・・・・・・まあな」

声を掛けられても視線を外さずに答えた。

どうしても丸い望月から目が離せない。

何時もこうしていた様な気がしてつい見てしまう。

どうやらまだ記憶が一定してないらしい。

――――――俺は俺の道を歩むと決めたのに。

俺は思わず苦笑した。

何秒か経った後、病院で言われたことを思い出し橙子に尋ねる。





「そういえば全てを教えてくれるんだろ?」

「ちょっと待ってて。えーと、有った有った」

橙子は机の引き出しから、分厚いファイルを取り出して机の上に置いた。

一体何が挟んであるんだ?と思わせられるほどの厚さ。

まあ魔術師だから、と俺は自己完結した。

喋り出す前に橙子は眼鏡を外す。





「教えるよ、だけどその前に―――――おまえ魔術を覚える気はないか?」

「―――――」

魔術、か。

そんなものなくても、この眼と七夜の体術さえあれば・・・・・・。

いや・・・一つだけあるな。

俺の記憶の中の―――――。





「ある。一つだけ」

「一つだけとは納得イカンがいいだろう」

「じゃあ早く教えろ」

「教えるさ、条件つきだがな。私はおまえに全てを教える。そのかわりに私の仕事を手伝ってもらう。
 おまえのせいで使い魔をなくしてしまったんでね」

・・・こいつペテン師だな。

ついて来れば全てを教えるって、のたまったくせに。

魔術師は信用出来んな。

まあ、それよりも―――――。





「それ人を殺せるか?」



志貴が放ったツメタイ言葉は魔術師を戦慄させた。

魔術師はそれに逡巡した後、頷きをもって答える。

後に魔術師は―――――まったく同じ言葉を聞く事になる。

奇しくもその相手は、志貴と同じ発音をする『シキ』という相手。

偶然か必然か、その『シキ』も直死の魔眼の持ち主だった。









あとがき
五話終了です〜♪
もうちょっと説明が続くかと思います(汗)
後一、二話ぐらいかと・・・・・(滝汗)
遠野の事とかですね〜。
それに式とかにも会わせないと・・・・・・・。
ご都合主義で進むかと思いますが(既に入ってますけど)広い心で多めに見てください(ペコリ)
それにしても眼鏡を着けたり外したりしすぎですね(苦笑)
それでは。

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