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「―――――やっと安定したか」

呟きと共に橙子は魔術を止めた。

額にうっすらと汗が滲んでいる事から、彼女の疲れ具合がありありと分かる。

―――――事実、彼女は無理をしていた。

一度に二つの魔術を駆使した上に、使い魔の命を変換して志貴に注いでいたのだから。



橙子は立ち上がり、机の場所へ移動する。

ソファーと机の間は意外と狭く、五歩も歩けば着く。

橙子は机とセットになっているイスに座り眼鏡を掛ける。





「少し疲れたわね。ん〜・・・・その前に仕事しないと」

橙子は眼鏡を掛けると性格がガラっと変わる。

掛けている時は優しい性格だが、外した時は冷静沈着な性格となる。

当然普段は眼鏡を掛けている。



橙子は一息つくと今の時間を確認する。

時刻は時期に真夜中を過ぎようとしていた。

かれこれ六時間ぐらい続いていた事になる。

その間休みを一切とっていなかったものだから当然―――――。





「その前に晩御飯・・・・・如何し様かしら?」

お腹が空くという訳だ。

橙子は暫く思案していたが、志貴の顔を見て―――――。

志貴くんと作ろうかな?

―――――と結論を出した。













「お前のお陰で思い出したよ」

クラキ闇で自分の過去を見て、思い出した。

自分の空ろな体に記憶という実で埋め尽くされた。

伽藍洞だった体に、過去の七夜志貴の記憶が詰まった。

お陰で自分の身に何が起こったか理解した。

ただそれは―――――理解しただけ。



その記憶が自分のモノなのかはっきりしない。

何処か自分じゃない他人の記憶を詰められたみたいな感じだ。

オレハ―――――オレナノカ?

本当にこの記憶はオレの記憶なのか?

さっきからその言葉が頭の中でグルグルと渦巻いている。





―――――そう、良かった。君に記憶が無いままだと大変だから―――――




闇からの声は何処かホッとしたような声を出す。

先程の力強い声から一転、全てを包み込むような優しい声。

俺はこの声の主の正体が薄々分かってきた。

だがその前に―――――。





「何故そんなに喜ぶ?」

理由がヒドク気になった。

確証は無いけど、聞いておかなければいけないような気がした。

もうこの先会わないような気がしたから。

もう二度と会えないような気がしたから。





―――――理由かい?それは言えない。ボクが言えるのは、この先君は大変な目に会う、というだけかな―――――




「何故だ」



―――――記憶を思い出したなら、分かるだろ?君が一緒にいる女の人の事を―――――



「ああ―――――封印指定だろ」

魔術師達を束ねる「魔術師協会」において与えられる最高の称号の一つ。

後にも先にも生まれる事がないと認められた、大魔術師に対する名誉であり拘束。

指定を受けた魔術師はその技を保存する為に魔術師協会より、

最高の保護と便宜を与えられるが同時にそれ以上の研究を中止させられる。

その為指定を受けた魔術師は研究を続ける為にほとんどが協会を脱退して身を隠すという。





―――――そう。その人が直死の魔眼という在りえざるモノを持った君と居る―――――



「・・・・・狙われるという事か」

この眼は余程の事なんだな。

まあ―――――確かに。

存在するモノなら全てを殺せるから。

例え、神だろうが悪魔であろうが―――――人であろうが。





―――――彼女が居るからバレないとは思うけど、もしもの為の保険って事だよ―――――



「そうか―――――なあ、一つ聞いていいか?」

理由は分かった。

理由は分かったが、ズッと気になる事が一つ。

頭の中を引っ掻き回している。





「オレはオレなのか?」

他人の記憶を引き継いだ感じ。

オレであってオレじゃない感じ。

オレじゃなくて―――――僕。

ボクじゃなくて―――――俺。

ヒドク曖昧。





―――――記憶の混乱・・・・・か。いいかい?何を思ってるか知らないけど、君は君だ―――――




「俺は俺?」

―――――ワカラナイ。

言葉の意味がわからない。

ぐちゃぐちゃしてて分からない。





―――――君は君なんだ。他の誰でもない七夜志貴は七夜志貴だ―――――


声は俺の心の闇を取り払ってくれる。

俺の弱さを強くしてくれる。

助けてくれる。

やっぱりコイツは―――――。





「ありがとうな―――――志貴」

全てが吹っ切れた。

昔の記憶がどうだろうが、オレはオレ。

昔など関係ない。

オレはオレの道を歩んでいく。



ありがとう―――――それは、初めて言った感謝の言葉。

ありがとう―――――それは、初めて言った素直な言葉。

―――――オレになって最初で最後であろうその言葉。

皮肉にも言った相手は―――――過去の自分自身だった。





―――――照れるよ、君に言われるなんて・・・・それじゃあお別れだ―――――




「―――――ああ」

右手にはいつの間にか『七つ夜』と柄の部分に刻まれたナイフを持っていた。

オレは自然に、極自然にナイフでこの世界の点を突く。

たったそれだけで全ては終わる。

この昏い眩病に支配された世界は死ぬ。

何の手ごたえも無く違和感も無く、ナイフはその点に吸い込まれていった。

―――――世界は一転白くなる。

黒から白。

辺りは白に埋め尽くされていく。

オレは白に、光に包まれて意識が遠のいていく。







―――――最後に声が聞こえた。

昔の志貴から今の志貴へ。

『頑張れ』と。









あとがき
4話しゅうりょ〜。
やっと死の世界が終わった・・・・。
後2,3話後ぐらいに少しバトルでも書こうかと考え中です。
といっても、そこまで戦闘描写は上手くありませんが(涙)
それでは、この辺で。

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