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「バカなっ!」
橙子は驚愕の言葉を洩らした。
暗示を解いて記憶の復元を終え、何者かの共有を剥離した途端事故が起きた。
それほど起こった事態が異常なのだろう。
――――――それもそのはず。
自分の手で仮死状態にした相手が治療を終えた途端、本当に死んでしまったのだから。
橙子は唖然とした。
――――――だがそれも一瞬。
直ぐに思考を切り替え、何が起こったかを考え始める。
何故死んだ?
治療はミスする事無く終えた。
これは自信が持てる。
では何故死ぬ?
・・・・・・・・違う、逆に考えろ。
何かを私がしたから志貴は死んだんだ。
――――――そう、何か、だ。
ついさっきまでしていた事はなんだ?
記憶の復元と共有からの剥離だ・・・・・・・。
「――――――っ!」
そうか、共有かっ!?
共有を断ち切った事による反動か。
命を受け止める器があっても、そこに注ぎ込まれている命が不足しているのか。
故に命が足りなくて『停止』したのか。
クソッ、私とした事が失念していた。
今から用意しても間に合わない。
・・・・・・・・・・・仕方がない。
使い魔の命を変換して、志貴の命が安定するまでの代わりとなってもらうか。
今日は色々ありすぎるな・・・・・。
――――――フッ、自業自得か。
◇
どれくらいの時が経っただろうか。
まだ俺はクラクフカイ闇に存在している。
何故俺は消えないのか。
何故まだ意識があるのか。
――――――生より死を選んだのに。
もう生きていても仕方がないのに。
生物には必ず死が訪れるのだから。
遅かれ早かれ全ては死ぬ。
だったら生きたいと足掻くよりも、絶対の死を選べば楽なのに。
――――――だから俺は死をエランダ。
――――――本当に?――――――
「誰だ!?」
俺しかいないクラヤミに、凛とした声が響き渡った。
暗い、昏い、クライ眩病に響く声。
――――――アリエナイ。
そう、ありえるはずが無い。
ココは死の世界。
俺しか居る事の出来ない、俺だけの世界。
自分の中の死の世界。
故に自分以外存在しないのに、声が聞こえるなんて――――――アリエナイ。
――――――本当に君は闇に飲み込まれるの?――――――
「それが俺の望みだ」
もう生には用がなくなった。
後は安らぎの死を迎え入れるだけ。
――――――嘘だ。君は生きたいと願っている、想っている。誰よりも生にしがみついている――――――
「違うっ!!!俺はっ!!・・・・・・・オレは」
――――――ホントウニシヲノゾンデイルノカ?
果たしてそれは安らぎなのか?
自分で死を選ぶのは現実から逃げるだけじゃないのか?
例え滑稽でも生に執着して足掻いた方が美しいのではないのか?
ヒトは有限。
有限だからこそ生を求め、儚き夢を追い求めているんじゃないのか?
ならば自ら死を選ぶ方が滑稽なんじゃないのか?
それならばオレハ――――――。
――――――イキタイ。
――――――答えが出た様だね――――――
「だけどっ!!オレハ死神。死を理解してしまった」
もう俺は完全に『死』を理解してしまった。
この線を視ていても、なんとも思わない。
違う・・・・・思えないんだ。
それが当たり前の様になってしまった。
――――――この眼の力のせいで。
――――――だけど君は光だ。全てを平等に照らす光だよ――――――
「オレが光?そんなわけが無いっ!俺は常に独りだ」
俺は周りを拒絶していた。
病院以前の記憶も無い。
俺は一人。
独りでもあり、弧りでもある。
そんな俺があの眩しい光だと!?
――――――君記憶が無いの?――――――
「ああ」
何所で生まれたかも。
何所で育ったかも。
どの様に育てられたかも。
何が起きたかも。
すべて――――――ワカラナイ。
全てはフカイフカイ闇の中。
思い出せるのは『七夜志貴』という名前。
後は――――――空に浮かぶ大きな月だけ。
それだけが、思い出せる。
――――――そうか、君に必要なのはきっかけか――――――
「きっかけだと?」
何かのきっかけで俺の記憶は戻るということか。
記憶。
失われた記憶。
思い出せない記憶。
忘却させられた記憶。
――――――思い出せっ!――――――
「グッ・・・・・」
頭の中に直接言われているかの様な声。
頭にズキズキと響くような力を持った声。
耳を塞ごうが関係無しに聞こえてくる意志のある声。
この時、いつの間にか自分の体が存在している事に気がついた。
いや、元々存在していたかもしれない。
感覚が無かっただけかもしれない。
声を聞いて、自分の感覚が急に戻ったのだ。
――――――思い出せっ!――――――
再び響く力強い声。
その声は頭の中で暴れ回り、何かをしている様な感じがする。
ふと、頭の中の霧みたいな白いモヤが一瞬ハレ何かが視えた。
女の子。
まだ、5、6歳の少女。
顔は影がかかったように暗くて見えなかった。
髪はストレートで長かった。
その流れるような黒髪を見て、キレイだと思った。
――――――まだだ。思い出せっ!――――――
言葉と共にだんだんと霧が掠れて薄くなって行く。
次に視えたのは、先程と年は同じぐらい。
やっぱり顔は見えなかった。
髪は乱雑に肩口で切りそろえられていた。
ボクとその子は模擬戦みたいのをやっていた。
――――――思い出すんだっ!――――――
「何だコレは・・・・・・・」
視えたものは異常だった。
場所は何処かの山奥・・・・・・・・・。
思い出した、俺が生まれた七夜の森だ。
七夜の森は真っ赤に真紅に染まっていた。
あたり一面に散乱している、赤、紅、朱、アカ。
真紅のように・・・・あるいは深紅のように。
全てが赤に塗り潰されていた。
散らばっているヒトと呼ばれていた人たち。
七夜にはその戦いのせいで、全てのヒトが居なくなった。
生き残ったのはボクただ一人。
・・・・・・そうだ、そこでボクは初めてヒトを魔を――――――コロシタ。
――――――全てを思い出せっ!――――――
場所は変わる。
遠野の家。
七夜を滅ぼした元凶。
ココの当主にボクは暗示をかけられたんだった。
この家で遊んだ子達。
男の子が一人に、女の子が二人。
白い髪にボクと同じ着流し姿の男の子。
スラっとした長い黒髪にフランス人形のような格好をした女の子。
肩口まで切りそろえ、いつも引っ張ってくれた女の子。
ボクも合わせて四人でいつも遊んでいた。
そんな遠野の家にはもう一人子供が居た。
女の子。
――――――いつも窓からボクたちを見ていた。
リーダーシップをとっていた女の子の双子の姉らしい。
その女の子はボクにリボンをくれた。
わざわざボクの部屋まで来て。
大きくなったら返してね。と、言って何故かボクにくれた。
その次の日。
真夏の暑い日差しが降り注ぐ中、ボクは胸を貫かれたんだ。
そんなことまで忘れていた。
しかし、もう全てを思い出した。
何故顔が見えないのかは不思議だけど。
オレは――――――全てを思い出した。
あとがき
第3話終了!
志貴の過去が明かされました(少しだけ)
誰と会っていたのかは分かると思います♪
次で死の世界は終わると思いますので頑張ります!!
恒例の難しい漢字チェック〜(笑)
昏い(クライ)
今回もこれぐらいでしょう(笑)
それでは〜♪
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