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「バカなっ!」

橙子は驚愕の言葉を洩らした。

暗示を解いて記憶の復元を終え、何者かの共有を剥離した途端事故が起きた。

それほど起こった事態が異常なのだろう。

――――――それもそのはず。

自分の手で仮死状態にした相手が治療を終えた途端、本当に死んでしまったのだから。



橙子は唖然とした。

――――――だがそれも一瞬。

直ぐに思考を切り替え、何が起こったかを考え始める。





何故死んだ?

治療はミスする事無く終えた。

これは自信が持てる。

では何故死ぬ?

・・・・・・・・違う、逆に考えろ。

何かを私がしたから志貴は死んだんだ。

――――――そう、何か、だ。

ついさっきまでしていた事はなんだ?

記憶の復元と共有からの剥離だ・・・・・・・。





「――――――っ!」

そうか、共有かっ!?

共有を断ち切った事による反動か。

命を受け止める器があっても、そこに注ぎ込まれている命が不足しているのか。

故に命が足りなくて『停止』したのか。

クソッ、私とした事が失念していた。

今から用意しても間に合わない。

・・・・・・・・・・・仕方がない。

使い魔の命を変換して、志貴の命が安定するまでの代わりとなってもらうか。

今日は色々ありすぎるな・・・・・。

――――――フッ、自業自得か。























どれくらいの時が経っただろうか。

まだ俺はクラクフカイ闇に存在している。

何故俺は消えないのか。

何故まだ意識があるのか。

――――――生より死を選んだのに。

もう生きていても仕方がないのに。



生物には必ず死が訪れるのだから。

遅かれ早かれ全ては死ぬ。

だったら生きたいと足掻くよりも、絶対の死を選べば楽なのに。

――――――だから俺は死をエランダ。









――――――本当に?――――――




「誰だ!?」

俺しかいないクラヤミに、凛とした声が響き渡った。

暗い、昏い、クライ眩病に響く声。

――――――アリエナイ。

そう、ありえるはずが無い。

ココは死の世界。

俺しか居る事の出来ない、俺だけの世界。

自分の中の死の世界。

故に自分以外存在しないのに、声が聞こえるなんて――――――アリエナイ。









――――――本当に君は闇に飲み込まれるの?――――――




「それが俺の望みだ」

もう生には用がなくなった。

後は安らぎの死を迎え入れるだけ。









――――――嘘だ。君は生きたいと願っている、想っている。誰よりも生にしがみついている――――――



「違うっ!!!俺はっ!!・・・・・・・オレは」

――――――ホントウニシヲノゾンデイルノカ?

果たしてそれは安らぎなのか?

自分で死を選ぶのは現実から逃げるだけじゃないのか?

例え滑稽でも生に執着して足掻いた方が美しいのではないのか?

ヒトは有限。

有限だからこそ生を求め、儚き夢を追い求めているんじゃないのか?

ならば自ら死を選ぶ方が滑稽なんじゃないのか?

それならばオレハ――――――。

――――――イキタイ。









――――――答えが出た様だね――――――




「だけどっ!!オレハ死神。死を理解してしまった」

もう俺は完全に『死』を理解してしまった。

この線を視ていても、なんとも思わない。

違う・・・・・思えないんだ。

それが当たり前の様になってしまった。

――――――この眼の力のせいで。









――――――だけど君は光だ。全てを平等に照らす光だよ――――――




「オレが光?そんなわけが無いっ!俺は常に独りだ」

俺は周りを拒絶していた。

病院以前の記憶も無い。

俺は一人。

独りでもあり、弧りでもある。

そんな俺があの眩しい光だと!?









――――――君記憶が無いの?――――――




「ああ」

何所で生まれたかも。

何所で育ったかも。

どの様に育てられたかも。

何が起きたかも。

すべて――――――ワカラナイ。

全てはフカイフカイ闇の中。

思い出せるのは『七夜志貴』という名前。

後は――――――空に浮かぶ大きな月だけ。

それだけが、思い出せる。









――――――そうか、君に必要なのはきっかけか――――――




「きっかけだと?」

何かのきっかけで俺の記憶は戻るということか。

記憶。

失われた記憶。

思い出せない記憶。

忘却させられた記憶。









――――――思い出せっ!――――――




「グッ・・・・・」

頭の中に直接言われているかの様な声。

頭にズキズキと響くような力を持った声。

耳を塞ごうが関係無しに聞こえてくる意志のある声。

この時、いつの間にか自分の体が存在している事に気がついた。

いや、元々存在していたかもしれない。

感覚が無かっただけかもしれない。

声を聞いて、自分の感覚が急に戻ったのだ。









――――――思い出せっ!――――――




再び響く力強い声。

その声は頭の中で暴れ回り、何かをしている様な感じがする。

ふと、頭の中の霧みたいな白いモヤが一瞬ハレ何かが視えた。

女の子。

まだ、5、6歳の少女。

顔は影がかかったように暗くて見えなかった。

髪はストレートで長かった。

その流れるような黒髪を見て、キレイだと思った。









――――――まだだ。思い出せっ!――――――




言葉と共にだんだんと霧が掠れて薄くなって行く。

次に視えたのは、先程と年は同じぐらい。

やっぱり顔は見えなかった。

髪は乱雑に肩口で切りそろえられていた。

ボクとその子は模擬戦みたいのをやっていた。









――――――思い出すんだっ!――――――




「何だコレは・・・・・・・」

視えたものは異常だった。

場所は何処かの山奥・・・・・・・・・。

思い出した、俺が生まれた七夜の森だ。

七夜の森は真っ赤に真紅に染まっていた。

あたり一面に散乱している、赤、紅、朱、アカ。

真紅のように・・・・あるいは深紅のように。

全てが赤に塗り潰されていた。

散らばっているヒトと呼ばれていた人たち。

七夜にはその戦いのせいで、全てのヒトが居なくなった。

生き残ったのはボクただ一人。

・・・・・・そうだ、そこでボクは初めてヒトを魔を――――――
コロシタ。









――――――全てを思い出せっ!――――――




場所は変わる。

遠野の家。

七夜を滅ぼした元凶。

ココの当主にボクは暗示をかけられたんだった。

この家で遊んだ子達。

男の子が一人に、女の子が二人。

白い髪にボクと同じ着流し姿の男の子。

スラっとした長い黒髪にフランス人形のような格好をした女の子。

肩口まで切りそろえ、いつも引っ張ってくれた女の子。

ボクも合わせて四人でいつも遊んでいた。

そんな遠野の家にはもう一人子供が居た。

女の子。

――――――いつも窓からボクたちを見ていた。

リーダーシップをとっていた女の子の双子の姉らしい。

その女の子はボクにリボンをくれた。

わざわざボクの部屋まで来て。

大きくなったら返してね。と、言って何故かボクにくれた。








その次の日。

真夏の暑い日差しが降り注ぐ中、ボクは胸を貫かれたんだ。

そんなことまで忘れていた。

しかし、もう全てを思い出した。

何故顔が見えないのかは不思議だけど。

オレは――――――全てを思い出した。













あとがき
第3話終了!
志貴の過去が明かされました(少しだけ)
誰と会っていたのかは分かると思います♪
次で死の世界は終わると思いますので頑張ります!!
恒例の難しい漢字チェック〜(笑)
昏い(クライ)
今回もこれぐらいでしょう(笑)
それでは〜♪

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