――――――――ただ、楽しいって事を教えてやりたかった
        たくさん、たくさん、無駄なことやって。ただ生きてるだけでも楽しいってことを
        アイツに教えてやりたかったんだ・・・・・・・・
        誰でもない、俺が愛したただ一人の我が侭なお姫様に――――――――――――。












/それは最後の、月の御話



或る処に、とても高い丘がありました。
その丘は手を伸ばせば月に届きそうな気持ちになってしまう
月にもても近い丘に、大きなお城が建っていました。
白い、白い、枯れ果てて尚、気高く在り続ける千年の城。
主である月の王様が去った後にも、決して崩れることはなかった白いお城が
今、まるで世界が終わるかのように崩れようとしています。

いえ。比喩ではなく本当に、世界が終わろうとしているのです。
霊長の世が、地球という世界が今、一人の王様によって終わろうとしているのです。

王様は、朱い月
白いお姫様の姿で、王様は幾千年の月日を経て再びこの星に君臨しようとしています。
その姿はとても綺麗で、トテモ怖い瞳をもっています。
その怖い瞳は、虹色に、軽蔑と嫌悪と歓喜と快楽で満たされてトテモ恐いです。
王様は言いました。

“不要な物が多き世界は不快でならない。故に、霊長は消えよ”

王様は人間が嫌いです。
月の王様は、なにもなくなった自分の国の代わりに、この地球と言う世界が欲しいのです。
その世界では、人間は邪魔でしかありません。
だから、殺します。

/

耳鳴りがするほどの静寂さえ五月蝿く感じる城の中には、月の王様が。
そして王様の前には、王様が嫌いな人間が何人もいます。
或る者は、大昔に王様を追い出した魔法使い
或る者は、現代に生きる若き五人の魔法使い
或る者は、長い間封印されていた異端の魔術使い
或る者は、今代に名を馳せる一流の魔術師
或る者は、魔に交わり仮初の不死を持つ鬼
或る者は、神の代行者とし異端を狩る神父
或る者は、巨大な力に後押しされた超能力者
そして、一人の青年。
誰もが王様が嫌いです。王様もまた人間が嫌いです。
だから、殺し合います。


静寂から騒然へ、現代から神代へ、それが始まりの鐘となりました。

老いた魔法使いが、宝石剣を振るい掲げ。
若き魔法使い達が、破壊の風を織り、無尽の力を掬い上げる。
封印された魔術師達が、神域の奇跡を作り上げる。
屈強の騎士達が聖剣を、神の代行者たちが聖典を手に詠う。
紅き眼をした人でない者達が、自分の世界から兵器を持ち出す。
意志ある抑止力が、不可思議な眼と力で睨む。
神秘が神秘でなくなりつつあり、魔法が科学になりつつある現代で
この場のみは、まるで神代の闘争の如き激しさと眩しさがここにあります。

轟音に継ぐ静粛 荘厳に継ぐ厳粛
無限に引き出される奇蹟
無尽蔵に掬い上げられる神秘
聖剣に魔剣
魔槍に偽剣
聖典に外典
結界に幻想
繋がれる奇蹟と神秘を、何重と折り続け異星系の神業へ紡いでいく。
恐らく、きっと最初で最後であろう現代の神話がここに積まれていきます。
それは“完璧”な魔法です。

でも、

それでも

王様は傷つきません。
王様はとても強くてトテモ敵うはずがありません。だって王様は“究極”なのですから
それでも皆は引くことなく、闘い続けます。
それだけが王様は不可解でなりませんでした。そしてトテモ不愉快でした。

引くことなく、止むことなく、留まることなく奇蹟という奇蹟、神秘という神秘を繋ぎ続けます。
何故なら、皆は月の王様が嫌いです。
でもそれ以上に、蒼い眼をした心優しい彼が好きだから。
どこまでも真っ直ぐにお姫様を愛し
どこまでも深くみななを愛した一人の青年のためにも、誰も逃げようとしません。
彼を信じているから、彼がトテモ頑張ったから、彼に幸せになって欲しい。

その気持ちを胸に、死んでいきます。

王様が右手を振るえば、血が飛び
王様が左手を下ろせば、脳漿が飛び散り
王様が振り返れば、奇跡が霧と消え
王様が睨めば、世界が凍りつく。
かつて魔法を知らなかった王様は負けましたが、今は魔法と言う神秘を知っています。
だから王様は負けません。
人がどんなに凄い秘儀を持ち出しても
人がどんなに未来の奇蹟を持ってきても
人がどんなに神様の真似をしても
決して王様は倒れません。
もう王様の敵と呼べる障害はありません、在るのは小石程度の邪魔物です。

けれど、それでも皆は諦めず絶望すらしてません。
だってこの世界には、王様を転ばせて、消してしまう小石があるから。




至る所に血が滲み出ている衣服に、包帯を巻いた、とても小さな小石。
既にボロボロの体で、使い古したナイフを握る手が弱々しく。
きっと、あと一分だって生きてやいないであろう青年

「・・・・・・・・アルクェイド――――――――――」

轟音が絶えず響く城の中で、ポツリと囁かれた言の葉。
殺戮の円舞より離れた場所で、仲間に支えられ生きている青年がいる。
この神代の再現とも言える渦中において、既に死に体の彼は最早用なし。
だというのに、誰も彼の退場を望まず、申しださない。
青年の名は、志貴。
七夜という退魔一族に生まれ、混血の家で育ち、死闘の中で生きてきた人の子。
幾千の死線と、幾千の血の海を、幾千の悲しみを越えてきた少年は何時しか青年に
自分が望まないまま卓越していく殺人の技で、何時かの約束のために夜を走り続けた殺人鬼
月の姫を愛し、愛された只一人の人間。
何よりも殺しを嫌い、誰よりも殺すこと特化した霊長の殺人貴。

“もういい、もう、これ以上はもう・・・・・・・・・やめてく。もうアイツを・・・・・”

遠野志貴が悲しむ。
お姫様が愛した人達を、自分の手で壊していくその光景に・・・・・・
七夜志貴は殺したがる。
人外の最たる月の王を前に、遠野志貴が愛したお姫様の姿をした月の王を全身全霊を以って殺したい
殺意と悲しみが混沌をする気持ちで、彼は揺れる。
殺したい、殺したくない
矛盾の螺旋と混沌とし、彼を揺らす。
やる事は決まってる。
約束は結ばれている。
月の姫と交わした約束だけが彼の永遠で絶対だった。
だから、だから、だから、だから、志貴は終焉へ進む。



彼が歩く。
まるで幽霊の様に、けれどしっかりとした足取りで最後の死地に向けて歩く。
すると、それだけで今までの轟音はピタリと静まる。
期待と不安、哀愁と焦心、希望と一握りの怒りが場を満たす。
皆は道を開ける。
月の王様に向かって、彼はゆっくりと歩く。
その時、世界はとても静かだった。
何もかも緩やかに、何もかも滑らかに、何もかも失念したような時間。


月の王様と霊長の殺人貴は、向き合う。


誰も、彼を止めません。
誰も、動こうとしません。
それは彼が愛したお姫様の姿をした王様も同じす。
彼は刹那に回想する。
お姫様と一緒に生きた、楽しい日々を。太陽のようなお姫様の笑顔を―――――――。
そして、彼は決意しました。

『世界よ。俺の魂をくれてやる、俺の死後を好きに使え。その代わり―――――――――――――――――――――』

誰かが杞憂したその言葉を彼は囁いた。
誰にも聞こえない、世界にだけ聞こえる声は確かに届いた。
だから、最後。
ボロボロの包帯が解かれる、これがきっと最後だと誰もが思う。

「オマエにこの生きた星は似合わない。だから、ここで、この死に絶えた世界でオマエを殺してやるよ。ブリュンツタッド」

大理石の城に響き染み渡る呪詛めいた、決意の言葉。
―――――ああ、終わる。
結末がどう転んでも、次の瞬間には世界の未来が決まるだろう。と皆は思う。
だから邪魔はしない。
どう転んでも、それが救いのない未来に変わりはないのだから。
だから、誰も止めない。
せめて、せめて最後は彼に「   」を与えてあげたいから



「さぁ、最後だ。オマエを殺した責任、ここで果たすよアルクェイド」



月の光で煌くナイフ、銀色の瞳が寂しく輝く。
颯爽と疾走、温和に冷笑、優しく愛撫し、鎌を刺し貫き討つ


これで終り

――――――救いが殺された。一つの運命の幕が静かに緩やかに幕を下りた。














seven night of“thetrue■■■■World”



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