さて、今回の物語は、いつ幕が上がったのだろう?
昨日?一昨日?半年前?一年前?アイツを殺してしまった時から?それともこんな眼になった時だろうか
多分、どれも違うかもしれないし、どれも正解かもしれない。
だって物語の始まりはいつも突然で、前兆がない。
いや、ただ何時始まったのか?いつから物語が始まったのか不明瞭なだけで本当は、もうずっと昔
それこと、俺が俺になる前からこの物語が始まっていたかもしれない。
初めから決まっていた物語、初めから決まっていた夜の宴。
たとえそれが、血や死がつきまとう惨酷なものだとしても殺せない物語
だからこの物語に名前を付けるなら、それはきっと・・・・・・





――――――――― fate/





静寂につぐ静寂。
夜闇が染み渡った深夜の住宅街は正者の気配が薄く、自殺の名所のように淀んだ空気が漂う。
街灯が寂しく夜道を照らし、長く先の見えない坂道はまるでそのまま地獄へ繋がっていそうで不吉。
そこまで不吉な空気を漂わせるのは果たして何が原因か
いや、それは誰が見ても一目瞭然だろう。
だってこの夜道に、原因の影はただ一つ。

「はぁー。」
冬の寒さで短く吐いた息は白く、夜の静けさで小さな吐息は寂しく響く。
そして、吐息より小さな足音だけが住宅街に響く。
街灯の光で出来た影だけが道連れ。
時刻は零時を過ぎ、人通りどころか家屋の灯さえ疎ら。
そんな時分に、少年が一人夜道を歩いている。黒髪に学生服と言う、極々有り触れた少年。
今はただ普通の少年が、不可思議な現象が多発する街を彷徨う。


「まいったな・・・・・」
辺りをキョロキョロを見渡しながら、少年はポツリと呟いた。

「見た目は普通だけど・・・・・・。まるで路地裏にきたみたいだよな、街全体が」
思った以上に厄介かも、と愚痴や苦情にも似た言葉で言い終えた。
そして長い坂道を下り、交差点へ向かう。
不慣れな、いや初めて訪れた町に右往左往しながらそれでも明確な目的を抱えて少年は歩みを進めている。
ふと、その進めた歩みを止め空を仰いだ。

「ああ、今日は・・・・・・」
見上げた空には拗ねた雲しかなく、月が姿を見せてはくれない。
道理で今夜は暗い訳だ、と何かを納得する。
同時に、あの街に置いてきた我が侭なお姫さまの姿が頭を過ぎって
昨夜まで居た三咲町から離れた見知らぬ土地で、自分は何してるんだろうと思った。


冬木市、深山町。
和洋様々な家屋が立ち並ぶこの町は、どこか異質で、異界めいた印象をもった。
別に御当地批判のつもりは一切ないけど、それでも初めて来たこの街はどこかおかしかった。
でも、俺がこの街に来た目的が目的だけに、この異質感を妙に納得させてしまう。
“聖杯戦争”
突然知らされたその戦争に、俺は巻き込まれた。
いや、正確にはいつもの様に自ら首を突っ込んだ。
戦争、という大げさにも聞こえるその言葉。
聞くに、その戦争は国と国との争いではなく、たった七人の魔術師達による殺し合いだという。
それなら“戦争”ではなく“殺し合い”なのだろうけど、その規模は、戦争といっても過言ではないらしい。
七人の魔術師に、七騎のサーヴァントと言う物凄い使い魔が組み、殺しあう。
それでも戦争は大げさではないかと訊くと
「ネロ以上アルクェイド未満の化物が七人とメシアカレーを奪われたシエルが七人、ペアを組んで暴れる。と想像してみろ」
と返答され、うん、街一つ消えるな。と納得した。
そして、その7組が“聖杯”という物を求めているらしい。
それはどんな願いでも叶える、まるで魔法のランプのような品物で、手に入れられるのは一組だけ。
だから奪い殺しあう。
そんな戦争が、この街で繰り広げられている。
だからどこか、普通とは違う。


「正直、聖杯なんて興味ないんだけど」
では何故こんな戦地に来たんだ、と言われるかもしれない。
それには、ちゃんとした目的がある。
目的というよりは、約束だ。



「さて、早く見つけないと朝になるな」
一息吐いて、辺りを見渡すし目的地を決める。
住宅街の真ん中辺りの十字路につき、人工的な光が煌く海岸の街へと足を進める。
夜が明ける前に、獲物ともいえる者を探し出すため。


と、その時




「見〜つけた」

天使とも悪魔とも思えるような声が、俺の体を停止させた。
静寂を静粛、静風に暴風をぶつけるけるかのように、そいつらは現れた。



―――――ああ、ツキの見えない夜に俺の運命は加速する。






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